まだねむれない

日々のことと小説

顔のない裸婦画(小説)

これは、とある女の話です。

美術館に、ギャラリーに、カフェに、そして誰かの家に、その女はいます。女はさまざまな場所で裸婦画としてそこにいました。女はヌードモデルでした。

女は自分のからだがとても好きでした。白く、すくよかな肌はたくさんの人を魅了し、しかし誰にも触れられないものとして存在し、たくさんの人に描かれました。

女の絵は描く人によって姿を変え、肉付きのよい女になったかと思えば、背骨が浮き出るようなそれでいてどこか彫刻めいた細身のからだにもなりました。どんな絵になっても女は女であると誰にでもわかりました。

だから街を歩けば女はすぐに絵のモデルだと気付かれ声をかけられるようになりました。女はそれをとても嫌がりました。女は絵だけの存在でいたかったのです。人である時の女は絵の女とは違うので放っておいて欲しかった。

絵がどこかへ展示されるたび女は有名になっていくので、もう誰にも存在を知られたくありませんでした。けれど自分のからだを描かれることは好きだったので、女はからだを手放すことにしました。

皆が絶賛するのは女のからだだったので、では顔は描かれる必要がないだろうとそれだけは女のものにすることにしました。女は自分の顔もとても好きでした。誰もその女の顔を好きだと言ってはくれなくても。女を描いた数々の絵から顔が消えました。そうして、女は自由になったのです。

 


今も、どこかの美術館に、ギャラリーに、カフェに、そして誰かの家に、その女はいます。

顔のない、裸婦画として。